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Category憶 1/29

笑って欲しいんだ

「男って、"自分にしか見せない顔"みたいなの好きだよね。それで昔の女がいつまでも自分のこと好きだって勘違いしてるんでしょ、キモいっつーの」なんかのドラマのセリフか? 急に始まった口上に呆気に取られて、吸っていたタバコを取り落としそうになった。ツレの家でひとしきり音楽談義が済んだ後、明日バイトのMが先んじてねっ転んだ辺りでAに火がついた。今日は家主のIと俺が付き合わされるパターンか。今夜の酒はコイツが仕事...

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何時何分何秒地球が何周かした時にね

「その壁、俺なら6秒で登れるよ」菱形の石が敷き詰められた、公園の急勾配の坂を昇り降りしてはしゃいでいた俺らに向かってTは言った。4つは学年が上だったろうか、でも学校で見たことは無かった。そりゃ手足も俺らより長いし何より上級生だし当然だろうという中、俺だけワクワクしてTの登る姿を見て興奮した。こいつは俺の知らない世界を持ってるんだ、と思った。周りは白けて帰ったけど、残ってほうけていた俺にTは「ゴルフする...

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油時計

 幼い頃緑色の油時計がうちにあって、ことあるごとにひっくり返して眺めていた。どっかの博物館の土産物で買ってもらったんだろうなァ。 スノウドームとか噴水とか蝋燭とか雲とか蛾の死体を運ぶ蟻の行列とかをずっと眺めてずっとずっと眺めている子供だった。今は、メトロノォムで練習しているとき時々同じ気分になる。そういうときはいい気持ち。 土曜日午前の授業が終わって、友達がこの後誰々の家に集まってゲームしよう漫画...

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バードソング

JRに就職が決まったKが助手席ではしゃいでいる。新しいプラモは出来がいいんだそうだ。公務員になる予定のDは運転席でハンドルを切っている、殆ど200km。鼻歌がうるさい。高速道路、軽のこの車は衝突したらペシャンコだろう。後部座席のEと俺は昨晩の疲労でダンマリ。二日酔いで頭も痛かった。歯茎がワックスでも塗ったようにベタつく。缶ピースの吸いすぎだ。日付が変わった頃Eがおもむろに彼女とベッドで始めたので、妙な空気に...

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低体温症の群青

遠くに見えた小さなオーロラ、向こう岸も見えない凍りついた大きな湖、地平線まで続く雪原、子供たちのアイスリンク、満天の宙に切れそうなほど白い息。耳鳴りがするほど静かで、世界に一人ぼっちだなと思った。そして、孤独は寂しいものではなくて、むしろ自然の賑やかさや温もりを感じさせてくれるものだと知った。いつもイラついていたし、冷めていたし、ザワついていた。毎日がクソだった。いや、クソだったのは自分の方。色ん...

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