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トリックオアトリート

 明日は私の誕生日。 だからきっと大切なことが起きるし、箪笥から怪獣が飛び出してこないし、枕元のペンギンのぬいぐるみが手拍子してくれるし、鉢から花火が上がって部屋中を光る粉が舞う。 フローリングの隙間から煙が湧き上がると、それはランプの魔人のように毛むくじゃらの優しいモンスターたちになって、沢山のプレゼントを私にくれる。 どれも可愛いリボンでラッピングしてあるから、あえて私はそれを一つも開けないで...

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Parachute Girl

 「あんまりそんな目で世界を見てはいけないよ」 「そんな、赤ん坊のように周りを見ていると、そのうち気が狂ってしまうよ」 「誰も彼もそのうち、”そのまま”って視点を捨てるんだ。そうしないと第三次世界大戦”平和”を生き残れないからね」 「林檎の赤い色はね、”赤いから赤い”んだよ。決して、花火やポストを見た時に林檎のような赤だとか、そんな風に考えてはいけない」 「少しずつ、少しずつ視野を狭くして、黒ーい輪っか...

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Call

 深夜の携帯のバイブレイションで目が覚めた。 その日は部屋に差し込む午後の風が気持ちよく、本を読んでいるうちにいつの間にか寝てしまっていた。物語の延長を夢でなぞっていたであろう心地いい感触が、僅かに頭に残っている。 呼び出しの名を見ることもなく、鳴り続ける下品なバイブの音に舌打ちをして俺は通話のボタンを押した。 「……遅いよ、出るのが……」 ひとしきり喚いたあとのような、がさついた声。携帯越しにこっち...

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紫煙/紫音

 「ジョイントくれよ……」 ヤニで完全にベタついた、ケツの穴より不潔な口で粘着質な音を立てながらタカが言う。 窓に何度も体当りする蛾の羽音がやけに耳障りだ。網戸は埃をかぶってクモの巣が張り、もはやこの部屋に家主はいないと主張するかのよう。 マンションの一階、煎餅布団の上で原因不明の腹痛に悶えながら、俺は枕元に置いたはずの水差しを探す。あるのはひっくり返った灰皿だけ。 部屋の隅でユミは一心不乱に携帯を...

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自我遺漏

 何者でもない人間が自分に名をつけ、仮初めを真実にしていく様はいつか美しくなるもので、力を注ぐに相応しいと思っていた。 だが何者でもない人間は、やはり、何者になることも無いのだと気付いた。 惨めに何者でもないまま、血の通わないお飾りの言葉、見え透いた笑顔、低知能なジョーク、笑われても尚過ちを直せぬ幼稚なプライド。 それでも足さえ引っ張らなければ良いが、ポリシーが無いから意見が変わり、記憶力が無いか...

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