Category叫 1/6

Call

 深夜の携帯のバイブレイションで目が覚めた。 その日は部屋に差し込む午後の風が気持ちよく、本を読んでいるうちにいつの間にか寝てしまっていた。物語の延長を夢でなぞっていたであろう心地いい感触が、僅かに頭に残っている。 呼び出しの名を見ることもなく、鳴り続ける下品なバイブの音に舌打ちをして俺は通話のボタンを押した。 「……遅いよ、出るのが……」 ひとしきり喚いたあとのような、がさついた声。携帯越しにこっち...

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紫煙/紫音

 「ジョイントくれよ……」 ヤニで完全にベタついた、ケツの穴より不潔な口で粘着質な音を立てながらタカが言う。 窓に何度も体当りする蛾の羽音がやけに耳障りだ。網戸は埃をかぶってクモの巣が張り、もはやこの部屋に家主はいないと主張するかのよう。 マンションの一階、煎餅布団の上で原因不明の腹痛に悶えながら、俺は枕元に置いたはずの水差しを探す。あるのはひっくり返った灰皿だけ。 部屋の隅でユミは一心不乱に携帯を...

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自我遺漏

 何者でもない人間が自分に名をつけ、仮初めを真実にしていく様はいつか美しくなるもので、力を注ぐに相応しいと思っていた。 だが何者でもない人間は、やはり、何者になることも無いのだと気付いた。 惨めに何者でもないまま、血の通わないお飾りの言葉、見え透いた笑顔、低知能なジョーク、笑われても尚過ちを直せぬ幼稚なプライド。 それでも足さえ引っ張らなければ良いが、ポリシーが無いから意見が変わり、記憶力が無いか...

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ひとごろし

 うだるような暑さ、例年よりも湿気はより濃く、校内で一番大きな桜の下でオオムラがパクってきたセブンスターを吸いながら、俺はテニスコートで揺れるポニーテールを見ていた。 来年踏み切りで、自らの意志により挽き肉に変貌する子だった。ボールがガットに当たる音と、スタンスミスのソールが擦れる音が、かすかに聞こえる。 夏のグラウンドは、小学校高学年で習わされたマーチングの夏季練習を思い出す。 直射日光に金管楽...

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また靄の中

 また君は騙された。 また同じところで間違えた。 君は最高傑作か? 本当にそうか? それならそうと言えばいい。 それならそうと言えばいいさ。 でも君はまた騙される。 また同じところで間違える。 何万回でもすればいい。 数回過ぎて飽きられて。 長い間一人でも彷徨えばいい。 そうして失った自分が、本当の自分だったと気付くまで。 取り戻す戦いなら協力しよう。...

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