Archive2017年08月 1/1

紫煙/紫音

 「ジョイントくれよ……」 ヤニで完全にベタついた、ケツの穴より不潔な口で粘着質な音を立てながらタカが言う。 窓に何度も体当りする蛾の羽音がやけに耳障りだ。網戸は埃をかぶってクモの巣が張り、もはやこの部屋に家主はいないと主張するかのよう。 マンションの一階、煎餅布団の上で原因不明の腹痛に悶えながら、俺は枕元に置いたはずの水差しを探す。あるのはひっくり返った灰皿だけ。 部屋の隅でユミは一心不乱に携帯を...

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エロティック

 俺が穀潰しとしては一丁前でブラブラしてた頃、大人はちょっぴりバカだった。いつもバカだとは思うが、統計的に全体がマシな時期とバカな時期が音波のように飛び交っていて、丁度そのバカな時期だった。 大人がバカだと子供は小狡くなる。夜中に出歩くのが特権だとナイーヴな理想に浸っていた俺は、夜毎ツレがいようが一人だろうがそこら中をほっつき歩いた。 俺にしろ当時のツレにしろ、皆何かを探していた。それは夜の街にし...

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In shoreline bed.

 修学旅行の夜を思い出してください。 南国の波の音を聴きながら、そこそこのホテル、先生達も宴会を始める頃。 僕達はアキラの「女子んとこ、行こーぜ」の一言で色めきだって、でも「全然興味なんてねーから、ただ、暇だし」って態度を完璧に演じながら部屋を抜け出しました。当時流行ったスパイのテレビゲームの真似事をしながら。 大体が部屋割りなんてもの、生徒達に任せたら可愛い子ってのは一箇所に集まるものでしょう。...

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身(褥/臀/胎)

 寝台は少しスプリングが安っぽい。読書灯は仄暗い。外も霧が濃い。 耳をくすぐるような女の鼻歌、壊れたようにアタックの強いピアノ、階段をボールが転げ落ちるような旋律。レコードノイズが激しい。バーボンを舐めると、それらのチューニングは私の耳に帳尻が取れたように揃う。 じっとしていても汗ばむほどの湿気で、アキレス腱の革靴に当たる部分が擦れてかぶれている。 女の腰、縫工筋の付け根辺りにも同じものがある。パ...

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自我遺漏

 何者でもない人間が自分に名をつけ、仮初めを真実にしていく様はいつか美しくなるもので、力を注ぐに相応しいと思っていた。 だが何者でもない人間は、やはり、何者になることも無いのだと気付いた。 惨めに何者でもないまま、血の通わないお飾りの言葉、見え透いた笑顔、低知能なジョーク、笑われても尚過ちを直せぬ幼稚なプライド。 それでも足さえ引っ張らなければ良いが、ポリシーが無いから意見が変わり、記憶力が無いか...

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