クレイドル

不器用で、無様で、美しい人が好きさ
肝心なことは忘れるんだ、どうでもいいことは覚えてるよ
俺にきっと名前はないんだろう
口を出るのは知らない女の名前
何を考えてるの?
知るわけない
何を考えてんだ?
教えてやらない
何を考えていた?
分からなくなった
何を考えていく?
破裂音が明星に響いて俺は気をとられていただけだ

△△さんは俺に署の取調室を見せてくれた
部屋の壁にはマジックミラーがあった
隣の部屋へ行く
ノートPCを見ていた警官が慌てて立ち上がって△△さんに頭を下げる
その画面には裸の女が揺れ動いていた
俺を得体の知れないもののように見るので
やっぱり俺は自分が何者で誰なのか知らない
△△さんはロンパリで片目がどっかいってる
俺を見るとき怖いのは、そっちの方の目だ
金魚のようにその丸い目はくるくる回る
何もかも見透かされてるようだ

あなたは綺麗なままがいい
君はいい子だと思ってた
お前は俺を癒してくれるな
そんなのは願い下げなんだ、俺に何ができる、ただ血迷って風になった気でいる
分かってくれだなんて思わない、ただ違う、違うんだ、そいつは認めたくないからなぁ
世間知らずなんだ、何も分かんないんだ、回りがなんで分かってるかも分かりやしない
肝心なことはどんどん忘れていく
それを忘れたらアイデンティティが消滅することさえ
それでも覚えてんだ、間違ってメール送ったふりしてそんなに返信ほしかったらしいあの子とか
黒板で勝手にハートで囲まれてる俺と誰かの顔とか
俺の髪や背中についてるゴミをいつもとってくる子、追いかける子、彩りがタイプ、歪まない歪まない

鯨の鳴き声がする、海なんだ、ここは海なんだ、日差しが遠くて揺れている
アラームがなるんだ、唸るように、サイレンだ、チャイムだ、警報機なんだよ、煙のせいなんだ、ここから下に潜ればきっと暖かくて気分がいい
ここは浅瀬、ふざけて飛沫をあげるのにも慣れたら、いつまでもこんなかわいいとこにいれるもんじゃない、もう少し俺の背中を強くぶつ方がいい、青くにじんであざになったら消えるまでは覚えていられる、俺の親指に残ってる切り傷だって理由や場所はとても覚えているんだ、刻まれるのは傷ではなく記憶だろう、そうだ、そうなんだ、そう、そうだよ
時間が負けた、時間に負けた
戦いだ、負ける結末だ、相手は誰だ、相変わらず憎む相手もいない、この世に悪者なんていないんだ、悪いのは灰色なんだ、灰色は灰色、部屋にいつか勝手に埃が溜まるように、いつのまにかそこにいて、俺たちの頭上に降りかかる埃だ
灰色は灰色は灰色は灰色で灰色だ肺色灰色の色は色
そしてだんだん色や明かりが消えていく、火山灰だ、噴火したんだ
空は厚い雲で覆われていく、それも灰色だ、そして極寒の寒さになる、太陽は無い、千切れ飛んだかすかな繊維が集まって大きな雲を作り出したんだ
ベイビー、偽りだ、偽りが居座ってるよ、偽り、つまり、つわり、つがい、つ、つ、つつ、つつ
ベイビー、ベイビー、ベイビー、ベイブ、シュガーベイブ、サマーベイブ、揺りかごさ
揺りかごなんだ、クレイドルだよ、Cradle、呼吸も億劫なんだ、そこで眠ってたいね、死んだように、泥のように、ベイビー、陸に打ち上げた魚なんだ、海の底に眠る記憶が座礁するんだ、意図的か運命か分からないよ、ベイビー
ベイビー…

2009/08/23

(※これも少しだけ作り話。この頃からペイブメントとソニック・ユース好きだったんだなぁ)
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