無防備

 まーくんから無防備という映画を借りて見た。
 中々自分から見ないタイプの映画だったため、非常に上質かつ実りのある作品に触れる機会を頂いたことにまずは感謝。
 カンヌ映画祭の「ある視点」辺りにでもノミネートされそうな感じだった。

 事前に調べた感じでは「無修正の出産シーンが初めて放映された」点がクローズアップされがちだったが、その点はさほど重要ではないと述べておこう。
 主人公は工場に勤める木下は極めて一般的な中年女性で、風貌や体系、雰囲気に取り立てて際立ったところは一つもない。
 交通事故による流産というトラウマを抱え、夫との生活が冷め切っている点を除いて。
 で、その職場に臨月の女性(監督の嫁らしい)山田が勤め始め、二人は徐々に親睦を深めていく。
 あらすじを説明するとこれだけだ。すごくシンプル。
 まずその点から非常にこの映画がコンセプチュアル、かつ極力言葉を廃した純度の高い作品であることが分かる。描くものは違うがその点では「あの夏、いちばん静かな海」と接近している。

 第一印象のこの映画の感想としては、「気持ち悪い」。悪い意味ではない。
 その気持ち悪さの原因として、まず一見の手触りから違和感が凄まじい。カメラアングルやレイアウト、場面選択が非常に泥臭く、洗練されていないのか、わざとなのか、困惑する。
 新人の山田に対し、主人公木下が業務を教えたりするシーンなどは、工場の制服や空気感、アングルから「なんの教則ビデオだコレ」と突っ込みたくなる。いやホント、映画を見てるとは思えなかった。
 BGMも「打ち込みか……?」と疑いたくなるほど、ちゃっちいアコギ一本だけだし。禁じられた遊びとは訳が違うぞ。ほっとちゃっちい。
 あまりに現実味がありすぎるのだ。「どっかで今まさにあるだろ、このショット」ってくらい。ありふれてるとは違うんだな。
 それは木下が家で過ごすシーンが一番顕著だ。小物や家具、配置から、そこらの一軒家をそのまま拝借したような感じだ。
 「雑然としたもの」を描くためには、驚くほど計算して乱数的に積み上げないと、意図的なものが浮いてしまって目も当てられなくなるのだが、この映画は全体を通してそれが非常に巧妙だ。
 結果的に恐ろしいまでの現実味がある。その結果俺は気持ち悪かった。
 一番心に来たのは、山田と仲良くなった木下が「また子供が欲しい」と思い、ちょっと高い食事を用意して夫の帰りを待つシーン。化粧もして、身だしなみも質素ながら整えている。
 案の定残業だかなんかで遅れて、おまけに野暮用で外出している間に、夫は帰ってきて爆睡している始末。
 いやホントよくある展開っていうか、「連絡しろや」って突っ込みたくなるけど、やっぱりこういうのは俺は見てて辛い……泣けてくる。

 まぁとにかくそのままリアリティで突っ切られたら、ドキュメンタリーと区別のつかないただの気持ち悪い映画で終わってしまうところだったが、そうではなかった。
 俺が「おお」と思ったのは、クライマックスでこれ以上ないほど映画に化けることだ。そこからは脅威のスピード感でエンディングまで超特急。
 終わるタイミングも素晴らしい。何も言うことがない。
 映画におけるリアリティの正しい使い方の一つと言えよう。

 リアリティについてもう少し掘り下げる。
 リアリティとは現実味のことだが、ここで勘違いしてはいけないのが、別に「現実」ではないことだ。
 「現実」だったらそれこそ現実には敵わない。
 同様に、あまりに荒唐無稽でも作品としての調性が失われる。そんなものは作品ではない。ただの世の中を舐めた中学生(つまり中二病)が考えた稚拙な妄想、ガラクタだ。
 魔法という要素があったって別に構わないんだけど、準拠が欲しいよね。何のリスクもなく放たれる強力な魔法で敵はみな一撃必殺。それじゃつまらん。
 これこれこういう理由があって、魔法が撃てる、それぐらいの後付があるだけで話はグッとリアリティが増す。勿論現実ではない。あくまでリアリティ、これでいい。
 リアリティのバランスは凄く繊細で絶妙なバランス感覚を求められる。
 以前読書について書いた記事で述べたが、作品を作品足らしめるものは「主旨」であり、リアリティというものはあくまで物語に没入させるためのカンフル剤なわけだ。
 更に言及したいのが、最近は安易にリアリティばかりに囚われすぎだという警鐘だ。
 本質的になることは大いに結構だが、その結果、商品性の高い要素(ツンデレ、メンヘラ、勇者、魔法など)や使いまわされた設定をくっつけただけの作品が多すぎる。おまけに引用を「オマージュ」で片付けている。
 それら一つにオリジナリティを足すだけで新しいものになる、などと俺は到底思わない。オリジナリティってのはそんな取ってつけたものではない。
 結果的に、この辺どっかで見たことあるなぁ……みたいなものばかりになる。超つまんねえ。
 何がタチ悪いって、自称オタクや自称腐女子がそれに食いつきまくってることだよな。いかに表面にしか興味がないかが浮き彫りだ。アホクサ。
 別に入り口はなんでもいーけど、そこから先に入る感じが全くないんだよな。それじゃ駄目だよ。

 要するに無防備はそのバランスが、俺の今まで知らない感覚だった。すごく良かったです。
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