狂四郎2030

 ジャングルの王者ターちゃんの作者の漫画。最近読了した。
 ジャンルは作者いわく「近未来SF冒険SEXYバイオレンスラブロマンスせんずりコメディちんこ漫画」。概ね当たってます。
 ディストピア系キチガイSF漫画という点で、覚悟のススメや銃夢にテイストが近い。(この二作は名作だ)
 SFと狂気、そして恋愛は非常に相性が良く、おかげでトラウマ大量発生装置と化しているのだが、この漫画も酷く心を抉られた。ズタズタ。

 覚悟のススメは主人公の葉隠覚悟(はがくれかくご。すごくカッコイイ名前だよネ)が強化外骨格「零」をまとって戦う勧善懲悪ものだが、敵がすごくグロい。味方の殺され方もすごくグロく、かつ情けない。
 後に「内臓(モツ)漫画」の異名をとるシグルイの作者だけある。
 倫理観も崩壊していて、一概に良い奴悪い奴と言えないところもキショい。とはいえ、主人公覚悟は非常に武士道気質の逞しい性格なので、見ててそこまで精神的にキツイこともなかった。
 おまけに終盤、SFでまさかの「なんだか知らんが、とにかくよし!」という名言がラスボスの散(はらら)から飛び出る始末。サイエンス・フィクションのサイエンス部分かなぐり捨ててる。
 まぁこの漫画のSF成分はもう、とってつけた味付けでしかないからな。魅力は他のところだ。

 銃夢はその点SF要素や考察、引用はかなりシッカリした骨太なストーリーだ。ちなみに銃夢と書いて「ガンム」と読ませるセンスもイケてる。
 話の焦点は主人公ガリィの成長が全てで、話の魅力も基本的にそこだ。話のスケールもめちゃめちゃデカイ。これ以上ないほどしっかり完結したが、何故か蛇足のLast Orderとかいうクソ続編を描き出したのでそこは減点要素。この続編ホント要らない。超つまんない。
 まぁ、この漫画で一番イカしてんのはマッドサイエンティストの鏡、ディスティ・ノヴァですよ。このキャラを生んだだけでこの漫画はすごい。

 で、狂四郎2030。
 ギャグマンガ家と思って舐めてたが、ひっくり返るくらい世界観がよく出来ており、登場人物はみな気が狂ってる。まともなのは主人公の相方のバベンスキー()だけだ。
 面白いのはバーチャマシンの存在。
 映画マトリックスみたいなもので、悲惨すぎる現実から逃避するため、国民に国から至急されたコンピュータ上の仮想世界があるのだが、主人公狂四郎とヒロインユリカの出会い、その後の逢引は物語終盤までずっとそこだ。つまり現実に会えるのはずっと後。花沢健吾のルサンチマンみたいだな。
 それでも残酷な世界に振り回され続けながら、お互いが出逢い、愛を重ねるためだけに必死で運命に抗う、というのが物語の骨子になっている。
 気が狂ってる登場人物たちはみな複雑な心情、身の上を抱えており、誰が悪で誰が正義かと容易に割り切れることはなく、誰もが幸せになりたいのに、世には憎悪ばかりが渦巻いて不幸だけが大きく育っていく。
 そんな世界で、これ以上ないほど美しいが、それゆえに儚く、ちっぽけで無力な存在が狂四郎とユリカの愛だ。
 複雑な人間模様と緻密な設定、重厚なストーリーが大変面白かった。
 しかし下ネタが酷すぎる。作中、シリアスすぎるストーリーを和ませるためか、作者の信条なのか、2,3ページに一回はギャグが入るのだが、全く笑えない場合も多い。
 いや、素で見たら面白いんだけどね……落差が凄まじすぎて「は、はは……」と何度もなった。全20巻なんだけど、慣れたのは12巻くらいからだったよ。
 まぁ「近未来SF冒険SEXYバイオレンスラブロマンスせんずりコメディちんこ漫画」だからね。そこは突っ込んでも仕方がないね。

 一番心をズタズタにされた「えっ 今日は全員カレー食っていいのか!!!」という場面があるのだけど。
 説明するだけで涙が止まらなくなるので(ここ最近すごく涙腺が緩い)、この記事を読んで欲しい。
 無能地帯 元ネタ紹介 『狂四郎2030』 徳弘正也:作

 こういった、人を信じるのに大事な心を粉々にするエピソードが……100個くらいある。
 純粋で聡明な奴が読んだらほぼ確実に人間不信になる。
 思い出しただけで泣けてきた……こんだけ人の心をズタズタに出来るのは作者の優れた観察眼と力量、そして何より作者自身の狂気に他ならない。
 久々に揺さぶられた漫画だった。
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