TRPGの思い出

 昔からのネット文化で、なりきりチャット(なり茶)というものがある。
 文字通り誰かになりきってチャットするもので、チャットだけではなくBBS、メーリングリストなど、コンテンツの数だけ形がある。
 なりきる対象も様々で、例えば有名人とか、有名漫画のキャラとか、オリジナルのキャラクターとか、その場限りの一発キャラとか。
 俺はもっぱらオリジナルキャラを作って、既存の世界観を提供するサイトで、同様になりきる人と遊んでいた。TRPGの血が濃かったわけだ。主に十代半ばから後半の頃。
 簡単に言うと、細部に超こだわったごっこ遊びだ。
 かといって過度に低俗なものと見くびってもらっても困る。有名キャラ二次キャラになりきって遊ぶものと一緒にしないで欲しい。あんなものに想像力はなく、やることといえばイメージプレイと変わらん下賎なクズどものオナニーだ。

 そもそも今遊ばれてるRPGというのは、その源流の一つがTRPG(テーブルトークRPG)なのだ。これは簡単に言うと、すごろく版ウィザードリィ。というか、ウィザードリィはTRPGをコンピュータ上でシミュレートして一人で遊べるようにしたゲームだ。
 有名なものは最古にして最高峰、ダンジョンズ&ドラゴンズというもので、D&Dとよく略して言う。勿論かのドラクエもこの流れを汲んでいる。敵が竜王なのはそのためだ。
 指輪物語のJ・R・Rトールキン的な剣と魔法の王道ファンタジーの世界観を基盤に、スカイリムなどのオープンワールド系のゲーム並みに綿密なパラメータを設定したオリジナルキャラクターで冒険する。勿論オープンワールド系もTRPGの影響下なら、その設定するパラメータ(Str,Dex,Con,Int,Luc)なども全てTRPG文化が基になっている。
 パラメータも好きに設定できるわけではなく、種族や職業でボーナス値が変わり、あちらを立てればこちらが立たずというヤキモキ、制限がある中での創意工夫が大変楽しい。なんでも出来る万能キャラというのは存在しない。意味ないから。
 人によってはイラストを書き下ろしてキャラへの愛着を深めたり、他者とのイメージの共有を図る。何にせよ想像力と美術力を多分に要求する超インテリな遊びだ。まずTRPGのルールブックの厚さが子供向けじゃないしね!!!!! 一日で覚えるのはまず不可能!!!!!
 分かったかい? 歴史があるんだよ、歴史が!! RPGはポッとコンピュータと同時に出たものじゃなくて、人間の想像力が生み出したアナログな雄大な物語が、0と1でプログラミングされたものだったのだよ!!

 そして何よりTRPGにおいて特徴的なのがGM(ゲームマスター)の存在だろう。
 ゲームのように勝手に話がオートで進むわけでもなければ、どこへ行けという指示もないので、進行役のみを勤める人がいるのだ。ストーリーテラーのようなポジションだな。
 大まかなシナリオはD&D側で何種類か用意されているが、細かいダンジョンの設定などはGM任せだし、好きに弄ることだって当然可能。話の進行は全てサイコロの出た目次第なので、GMの思惑に思い切り乗っかるか、予想外に掌から転がり落ちるか、そういう先の見えないランダム要素が本当に冒険している気にさせる。

 例えば宝箱一つ開けるだけで、こんなにワクワクがある。
 1.宝箱を見つけた。が、鍵が掛かってる。どうしよう。
 2.俺のキャラが盗賊だから俺がダイスを振るぜ!
 3.出た目に素早さ、器用さ等のステータス補正、加えて職業や保持するスキル補正、GMの気分次第で(手元が暗い)とか(鍵は2重だった)とか、酷なマイナス補正をかけられることもある。
 4.補正の計算……(ドキドキもするが、もどかしい時間でもある。これがゲームだと一瞬なのがRPGの流行った一番のキッカケかもね)
 5.成功→宝ゲット!!
   失敗→罠が発動! 毒ガスが生じてパーティ全員に20のダメージ。

 てな感じでね。
 で、なり茶サイトも雲泥あるもんで、俺が最終的に落ち着いたのはproject ETUDEという、なりチャの中でも一際TRPG色の強いサイトだった。随分前にもう閉鎖した。多分なり茶で一番クオリティの高いサイトだった。
 運営が知識や技量を備えた管理人、しかもそれが複数人で分担、職業イラストレーターも抱えてたし。(MTGの絵とか描いてる人)キャラ作成にFLASHも導入してたし、CGIやサイトデザインも洗練されていて、広告も無い、参加しているプレイヤーも揃って高レベル。無料なのがおかしかったレベル。
 サイコロをCGIで再現したサイトもあったが、如何せん流れが悪けりゃロールプレイの質が悪い人ばかり(簡単に言うと文章力が無い、ガキっぽい)で辟易していた。
 マジのTRPGみたいに口頭で顔合わせてワイワイやれるわけじゃないから、人を惹きつける文章や軽妙な台詞回しが出来ないと、濃密なロールプレイが出来ない。更に更に、タイピングが遅いと平気で30分1時間かかる。その間相手は待つことしか出来ないので、想像力だけでなくスピードも要求される。おまけにそれは単独では出来ないから、あれだけの人材がネットで一箇所に揃ってたことは軽い奇跡としか言いようがない。嫌な相手とは踊りたくないさ、誰だって。
 勿論今でもなり茶サイトは複数あるが、完全にブームが沈静化したことと、多分みんな大人になったってことで、あれほどのクオリティを見たことは二度と無い。(元々レベルの高いサイトはやっぱ大体が成人向けで、となると社会人が多く、それでなくてもほとんどのなり茶は深夜帯が一番賑やかだったけど)
 成人向けで面白いところも結構あって、俺はネットなのをいいことにそこかしこに参加していた。ふふふ、俺の演技力や文章力、想像力はあそこで磨かれたと言っても過言ではないぜ。
 バンドマンはみんななり茶と言わんでも、TRPGやった方がいいんじゃないか? 本気で楽しもうと思ったらすげー協調性つくぜ?

 ロールプレイとなると、数字の制約が無いので幾らでも「俺つえええ」できるわけだけど、そこで如何に自分でハードルを設け、アイディアや閃きで乗り越えるかが重要でもあった。
 バトル一つとっても好き放題できるわけじゃなかったのよ、実は。
 例えば
 A「食らえッ!!(Aの振りかぶった一撃はBの腹をかっ捌いた)」
 これはアウト。Bの行動を制約してはならない。限度はあるが、あくまでBの成否はBのプレイヤーが決定する。
 B「ぐっ……!!(かっ捌いた、かに見えたAの一撃だが、Bはかろうじて身をよじり服を切り裂くだけに留まった)」
 相手がAみたいな困ったちゃんの場合、Bはこんな風に苦労する羽目になる。1レスで3つ以上の行動も俺つえええに繋がるので禁止、など、ゆるく見えてかなり厳密、おまけに暗黙の了解も結構あって凄く空気読みスキルが試される。
 ただこれがハマると面白いんだよ……窮屈さを想像力で克服する感じがね。冒険!! 冒険なんだよ!! 綺麗に相手とワルツを踊れたときには、あの快感はイメプより全然気持ちよかったよ。イメプしたことないけど。
 思えばこれってバンド活動とすごく似ているな。

 ちなみに俺は当時からお調子者か、敵役をやるのが好きだった……。
 結構いい敵役するんだぜ、しぶとくてあくどいんだけど、食らう攻撃はちゃんと食らってやるし。(主役は正規プレイヤーだからね)けど簡単に負けたくないから腕の一本二本貰ったりとかさ。相手のプライドを傷つけるような一言残して、派手に死ぬとか。
 しぶとい方があとで運営が判定したときに冒険者に称号を付与したり(ちゃんとプレイヤーデータに肩書き載るんだぜ。興奮するぜ!? 新入りじゃなくなったぞ!!みたいな)、報酬大目に出たりするし。
 まぁやっぱりみんなヒーローやりたいから、悪役はいつも人材不足だったが……。←中々哲学的な台詞だと思わんか?
 特にドラマチックな悪役となるとね。手前味噌だが俺はいいドラマ提供してたよ。相手がいい踊り手ならね。

 ところで、TRPGがRPGの元祖元祖と推してきたが、PIGS店長の翔さんの説も嫌いじゃないって言うか、すごくロマンがあって大好きなんだよね。
 曰く、「最初のRPGの主人公がロールって名前で、ロールを操作するから『ロール・プレイング・ゲーム』」って奴ね。いやいいよねこの話。なんか、正しいとか間違ってるとかどうでもいいよね。
 どうでもいいんだわ。
 楽しかったなァ……。
スポンサーサイト