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2015

涙を流せる君が羨ましい

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 夏も過ぎた涼しい日の午後、死体と添い寝した夢。
 君の美しさのこと。

 地面が揺れる、震える手、零階から転落死、地上は高いね。
 埃の溜まったガレージ、ここで日記を書こう。
 愚かで醜い優しい獣、穏やかでしとやかで、力の強すぎた獣の、色と敗北の話。

 「一昨日ね、スーパーがセールだったからね、愛想っていうのを買ってきたよ。税込み132円だって。
 トイレを偉そうに使える権利が付いてきたよ。入れる袋は有料だったなぁ、愛想より高かったよ」

 噴水で溺れる君を、助けようとした。
 羊水、刺青、犯罪者、道理、敗れるよ、破れるよ、破れるよ、破れるよ。
 買うよ、その嘘。幾らだ? 落とした子、幾らだ?
 鮫、聴こえない歌、面倒な花、リノリウムに反響する足音、ハイヒール、それとも暑苦しい発狂、コカイン?

 瘡蓋、捻挫、膿、包帯、ガーゼ、注射器、ロリィタ、ピンセット、脱脂綿、アルコール、点滴、背骨から病院の匂い。
 子どもの青い自転車、ステッカーとシール、壊れたブレーキ、キラつくハンドル、緑の葉、木漏れ日、眩暈、腹痛。
 ポニー、赤い尾っぽ、黒髪のギタリスト、居場所がないカタリナ、逃げ出そうか、あの牧場まで。
 きっとたどり着かないが、頬杖ついてそれを見守っていたい。

 3500円で休憩できる城。
 君とおじさんが出てくる城。
 君はお姫様だったのか。
 じゃああれは王様か、君に小遣いを渡す。

 「君の悲しみが溶けたカクテルを飲むよ、独りで」

 懐かしい女に電話をかける、赤の他人、またレーベルは元通り、懐かしい他人、空似かも、渋い笑い声。
 酔ったような甘い囁き声、猫ちゃん、そこの曲がり角、悪魔が出るんだよ。

 真夏のロッカーの中で溶かされたソルベ。知ろうともしない、蒼い海、アドリアだ。風に香辛料の匂いがするだろ?
 ショコラ、そばかすが似合う子。ホイップにまみれて泣きはらしたゾーイー。思い出してご覧。
 ほんの少しの革命と、覚えたてのイケナイ遊びと、瘡蓋剥がした血で飛ぼうよ、あのベランダ。

 プールに、どぼどぼと錠剤と香水とカルピスとテネシーハニーとローションと薔薇とコカを入れて泳がないか?
 向こう岸までクロール、きっと半ばで溺れる。
 そのとき水着を外して、ニューオーダーとスタイルカウンシルの歌が聞こえて、涙は上に昇っていって。
 指折り数える。君のえづきの数を。

 トトトツーツーツートトト
 トトトツーツーツートトト
 トトトツーツーツートトト

 「いつか僕が獣になったときは、シルクのスカーフを僕の首に巻いて、絞め殺して欲しいのです。
 薪が燃えるように、パキパキと軋む骨の音を聞きながら、レコードに針を落とした音もつけて。
 そして回りはね、トンネルの奥から物々しく照明が消えていって、生きた心地がしない雨なんです」

 プラスチックの空の卵に、注射器でピンクのペンキを流し込んで、チョークの粉をぶっかけて掃除用具入れに閉じ込めて、室外機で暖まってたら何故か生まれちゃったのがお前。
 「父親は人体模型。母親は…春かな。いいだろ?」
 「お爺ちゃんは理科室?」
 「違う、三角フラスコだ」

 渇いた唇舐めて血が出た、錆びた鉄パイプの味、奥歯にアルミホイル噛んだ感触、犬歯の裏をベロベロつつく。
 眼球がスパーク、耳から煙が出そう。
 鉄パイプで殴ったら指輪の内側にギンと響いて、指の骨の芯まで伝わってきたよ、殴られた痛みが。
 僕は加害者である前に被害者だったんだ。それは牢獄の中の人全員がそうなんだよ。
 その牢獄の中では更正カリキュラムがあって、手術をするんだけど。
 僕は手術に失敗して以来、栄養ゼリーがいつも手放せないんだ。
 カブトムシの気分だよ。臭いだろ? 僕。ゼリーの匂いなんだ。
 これはもうしょうがないんだよ。毎日この内臓と骨をごっちゃにすり潰したゼリーを三回も飲まないといけないんだ。
 おまけに8時間も電源を供給しなきゃいけない。ポンコツだよ。酷い病気だと思わないか?

 涙を流せる君が羨ましい。
 寒すぎると死ぬ君が羨ましい。
 鉄で出来てる自分が疎ましい。 
 涙を流せる、君が心底羨ましい。
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