根ぐされしてる、水をやりすぎた、土はよかった

 愛してると言ってくれ、
 犬の涙、スノウドーム、金魚蜂、排水溝、窓の向こう、バスの天井
 愛してると言ってくれ、
 スピーカーの小さな穴ぼこ、積み上げた本、モンマルトル、水色の煙
 愛してると言ってくれ、
 水族館の月、首をかしげるミミズク、分からないことが多い、ディスカウントショップ
 愛してるは辞めておけ、
 マイスリー、アルペジオ、燕尾服、一つ一つの窓のカーテンに人の影

 暖かい空気、クリスマス、プレゼントを届けに行く父親、納税用紙がポケットから落ちる
 浮浪者はアルミ缶の底をくりぬいて、灰皿と缶コーヒーのコップを作る
 イルミネイション、僕の目はがらんどう、綺麗だろう、口付けしてもいいよね、違うよ、バタフライキスだよ
 睫毛に触れて、くすぐったいと言う、牡丹雪が頬に落ちて、くすぐったいと言う、笑う

 道路のアスファルトの部分に隙間無く蟻が敷き詰められてる、歩けない、歩けないよ
 アハハハハ、歩けないよ
 空もそのペンキがボタボタ落ちてくるし、壁のシミは全て瞬きをしているし、二酸化炭素は監視カメラで
 どうしたことだろう

 「エアコンも止めたし、ガスの元栓も抜いたし、冷蔵庫も空にしたし、ノートは全部破いたし、本は全部落書きしておいたし、パソコンは壊したし、携帯は風呂に沈めたし、なんなら消火器で部屋中にお化粧しておいたよ。これでどこまでも行ける。帰らなくていいもの。すごく身軽なの、聞いて、明日私の誕生日、昨日あなたの大事な人が亡くなったでしょう、でもきっと明日にはもう生まれ変わってるわ、だからそしたら私と同じ誕生日、いいでしょ?もしかして私の中に宿るかも、全ては繋がっているし輪っかなの、大丈夫、輪っかの中か外かの話だし、悲しまないでとも言わないの。その悲しむ気持ちはあなたがその人を大切にした分だけの痛みと血の温もりなの。例えば私達は受精した段階で自分から血液を作り出すから、親子とも正確には血がつながってないの。おまけに赤の他人とこんなに分かり合える日が来るなんて、って思うこともあるでしょう? でもだからこそね、どうして大切にしていたんだろう、大切にしていくんだろうってことをいつもいつまでも思い出して、忘れて、また思い出して、噛み締めて、大事にして、少しずつ味は薄くなっていって、でも消えるわけじゃなくて、きっと宝箱の底の方に行くだけで上にも宝物が積もっていく、そのどれもがちゃんと宝物だから大事にしてないわけでもない。そういう約束、お肌で暖めてあげるの。だからいいんだよ。それとどこに行く?今度はどこにお帰りって言おう?ねぇきっとすごく大事なことだよ、私達はこれからどこに帰るんだろう。まだ行ったこともない場所に帰っていくんだよ、帰る場所は変わっていくけど、いつだってどこへだって帰ろうと思えば帰れるっていうこと、今日思い出した。これから一緒に帰ろう、膝をすりむいても、地図が逆さでも、お駄賃が足りなくても、雨模様でも大丈夫だよ。明日に帰ろうね、知っている未来かも。それとも深海かなぁ。だから、手を離さないで」

 右足を前に出す、人の目をちゃんと見る、呼吸は深くも浅くもなく、鼻息が音にならないように。
 笑うには口角を上げる、目を細める、少し首を傾げてもいいかもしれない、歯をあまり出し過ぎるな、でもこれは失敗だ。
 目の奥が黒すぎる。怪物が覗きあうぞ。

 根ぐされしてる、水をやりすぎた、土はよかった
 風は涙を含んでいた
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