04
2016

プールサイド

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 塩素の匂い。
 今日はこれから暑くなる、という予感のする朝。
 ビニールに水着を入れた小学生。
 近くの工場から鉄が軋む音、君はうっすらと涙を浮かべながらオルガンを弾いている。
 特に言葉は要らないように思った。というより、むしろ、かける言葉が見つからない。
 窓に並べた真っ赤な風車が回っている、枠にかけた水玉の傘から雫が落ちている、大粒の雨が降っていたらしい。
 そういえば、寝ぼけ眼に稲妻の光を見たかもしれない。

 思い出がどんどん崩れていくのが分かる、思い出がどんどん壊れていくのが分かる。

 思い出だろうか、自分だろうか、思い出は重いで済むだろうか、思い出は遠い目になるだろうか。

 些か情緒に欠けているように感じる。
 僕がナイーヴに過ぎるのかもしれない。
 いっそ、梔子の似合うような風貌なら良かったかもしれぬと独りごちたりもする。
 ソバージュの効いた栗色の髪と、ソバカスと、ツンと上向いた鼻、のような。
 
 大切なものから、失っていくんだよ。
 大切なものを、大切にすることは、どうしてこんなにも難しいのだろう。
 大切なものは、目に見えないと言う。
 本当かな。
 目を閉じれば見えるものを、目に見えないと言っていいのかな。
 そういう言い方なら伝わる君の感性ってやつを、時折完璧に破壊したくなるときもある。
 目を閉じよう……低気圧が分かるよ。

 ユンボが泣いてるよ、電線を噛み切るんだ、僕も項垂れよう、祈っているのかもしれない。
 ユンボが泣いてるよ、鯨の鳴き声のようだ、この周波数は君に伝わるだろうか。
 ユンボが泣いてるよ、破壊し尽くされた跡の荒野とガラクタって妙にそそるんだ、故郷のようだ。
 ユンボが泣いてるよ、何が哀しくて泣いているかも分からない、だって動くたびに鳴るんだ。
 動くたびに軋むこの音が、君に伝わるだろうか……。
 塩素は僕も消毒してくれるだろうか……。
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