BOY MEETS GIRL / ダラス・バイヤーズ・クラブ / SNATCH / この世の全部を敵に回して

BOY MEETS GIRL
 レオス・カラックスのアレックス三部作、その一作目。ようやく見れた。
 数多の引用やオマージュがあるそうだが、個人的にはあらゆる面で汚れた血のパイロットフィルム、ひいてはカラックス自身の原風景となる映像美だったのではないかと思う。
 はっきりいって話の展開は分かりにくい。よく出来た話が見たいなら汚れた血を見たほうがいい。(15%ぐらいは分かりやすい)
 おまけに意図したものか、単なるノイズなのか分からないコマ落ちが多い。それが狙いかもしれないが。

 ただこの際言っておきたいのが、「分かりやすければいいというものではない」という話だね。
 というか、人が丹精込めて作ったものは、本来は極めて分かりにくいはずなのよ。
 その人の視点(対・世界観)が色濃く反映されればされるほど、それは似たような境遇や思想を経なければ理解しがたい。
 アートにおける技術は、それをいかに「分かりやすくする」というものなのだ。別に上手いとかよく出来てるとか、そういうのは技術じゃない。
 幾万の先駆者たちが試した可能性の中で、「どうも一番多くの人間に伝わりやすい方法があるようだ」という発見が技術と言われるのだ。
 極端な話、林檎は丸にヘタを足して赤く塗れば、まぁ大体、林檎と認識してもらえる。この行程を技術と言う。
 赤の塗料に何を使うか、ムラはどうするか、丸の輪郭の角度はどうするか、輪郭は線で書くのか、濃淡で浮かべるのか。その選択肢を世界観と言う。

 ついでに付け足すと、最近「世界観」という言葉が誤用されすぎている。
 「世界観」とは「その人固有のモチーフ、色彩、デザイン感覚」などを包括して指す言葉ではない。本来は。
 その人にとって「この世界はどういうものか」、ということを端的に表すのが「世界観」という言葉です。
 まぁ時代と共に言葉は変わるので、そんなことはどうでもいいんだけど。

 その人固有のなんちゃらなんて、無いんですよ。そんなものは。
 ある!と思ってる人は若い。愚かとも言う。若いってのはいいね。あるのはイデア界からの思し召しだけッス。
 真摯に考えていけば、そのうち「世界観」という言葉が、後者(本来の意味)でしか成り立たないのは自明の理なのよ。
 さらっとイデア界とか言っちゃいましたけど、これもそのうち分かります。現時点でちょっと分かる人は。
 ちっとも分からない人は若い。愚かとも言う。若いってのはいいね。時と場合を選べば。

 そう、結論に戻ると、天才はやはり最初から天才だった。
 そんな感じですね。ドニ・ラヴァンの繊細さと野性味よ永遠なれ、、、

ダラス・バイヤーズ・クラブ
 もっと笑えて感動風味な話かと思ってたんですが、全然違いましたね。
 HIV感染によって余命30日と宣告されたカウボーイが、同じくHIVのオカマ(MTF)と、既存の毒性の高い治療法を拒否して、未承認薬を輸入する会社を作る話。
 元が実話で、難病やセクシャルマイノリティを扱うと、どうしても過度な感動演出がつきまとうが、これは全く無かった。意図的に削減している。
 一緒に見てた乖離。がオカマ役のジャレッド・レトを指して「こっちでもヤク漬けかい!」と突っ込んでたのに笑った。レクイエム・フォー・ドリームの主役なのね。
 主人公は最初、オカマに対する性差別が凄かったんだけど、相棒と縁を続けるうちに大切な友人として扱っていくようになることが泣ける。ここで感動的なストリングスは一切流れない。渋い。
 あと主人公は一貫して金の亡者のような言動を崩さないけど、それはあくまで「収入が欲しい、それは生きていくため、そして効果のある治療法を公に認めさせるために」という風にしか見れず、涙ぐましい努力だ。
 治療法を改善するための裁判に負けてトボトボ帰ってきた主人公を、クラブのみんなが結果も聞かずに拍手とハグで迎えるシーンがすっごく素敵。
 あとジャレッド・レトが凄く可愛かったです……。
 面白みは全く無いが、ヒューマンドラマという点ではめちゃくちゃ上質ですね。いや、本当に面白くないです。
 ただめっちゃくちゃ上質ですね。(勧めてるのか勧めてないのか)

SNATCH
 まぁこの三つね、借りたいのが無くて仕方なく借りたんよ。これも監督の前作、トゥースモーキングなんたらがそれなりに面白かったから。
 もう説明がめんどくさいから適当に書くけど、伊坂幸太郎の小説を映像化したようなもん。
 伊坂幸太郎のあの、ぬるま湯な感じとタランティーノ的群像劇とユーモアセンス。
 娯楽映画だ! 見やすい! 笑える! そこそこ驚きもある! テンポも悪くない! なんとなく画面やファッションがオシャレ!
 以上だ!

この世の全部を敵に回して
 これは本。白石一文の。ちょっとレジに出すのが恥ずかしいタイトルだった。
 生来気にしない性分だけど、最近ちょっと分かってきました、こういうの。
 まぁそんなことはぶっ飛ぶほどの名文ですね、これは。小説と言うより、一人の男の思索をとうとうと語っている。
 これこそまさに「世界観」と呼ぶに相応しいものが凝縮されている。
 そしてこの世界観、僕が長らく愛用しているものと逐一合致するの。
 僕は僕をこの本から学べる、と言ってもよい。特に終盤の言葉の慈しみと情感には、涙がこぼれそう。
 もっともっと、多くの人に読んでもらいたい。救済を描いた本です。

 全然関係ないんだが、本を読んでて「スピード感」って、あるじゃないですか。
 あれ不思議だよね。読むのはその人なんだから、スピードもクソもないじゃん、っていう。でも実際あるんだよね。
 でも強いて言えば、そのスピード感は紙の媒体でしか味わえないノイズの部分にあるんじゃないかな。
 電子書籍の便利さは良いと思う。
 でも僕は本の無い世界は、格好悪いと思う。スマホで本を読んでも、格好良くない。
 いや格好は大事だよ。現に世の中の暮らしはスマートとか何とか言って、どんどん格好悪くなっているじゃない。
 無様でもいいんだ、本物なら。紛い物よりマシだと思う。
 でもそう思えるのは、気高い人間だけなんだよね。
 気高くなりたくない人の気持ちが、僕には分からないよ。全然分からない。
 みじめなままでいいなんて、その心が一番みじめだと思う。
 不思議だな。この世は不思議なことが一杯だ。
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