教会

 神様、夜毎僕は一言ばかり眠りに落ちる前、
 「どうか目が覚めたら僕が僕じゃありませんように」と祈っているのに、ついぞ叶えてくれることはないのですね。
 大人達が礼拝堂で説教を聞いている間、子供の僕たちは談話室で絵を描いていました。
 僕はパルテノン神殿をクーピーで模写しました。
 それを見て保母さんは「この子は絵の才能がありますよ、素敵です」と親や周りの子に見せた。

 僕はそれが酷く嫌でした。

 「こんなものは見たままになぞって塗っただけで、僕の描きたいものや色が手元に何一つ無いんだ。
 こんなものは絵でもなんでもない!!」
 と、言って破り散らしたい気持ちでいっぱいでした。
 でもそれをどう言葉にすればいいか、そのときは分かりませんでした。
 神様、僕はやっぱり、洗礼されていないから見捨てられてしまったのでしょうか?
 僕に名前は無いのでしょうか?
 お祈りの言葉もキチンと捧げられず、毎年届くクリスマスカードも憎たらしく思っていた僕を、
 そんな僕のままでいなさいと蔑んでいるのでしょうか。
 ささやかな反抗で僕は、家に帰ってからパルテノン神殿の柱に蔦を這わせました。
 埋め尽くして、絞め殺すほどに絡めて塗り潰しました。
 その茨の針が、まだ指に絡み付いて、どれだけ洗っても取れないままでいるような気がします。
 
 教会の駐車場には、割れた隙間から蒲公英が生えていました。
 よく見ようと寝そべるとアスファルトは陽射しでポカポカして、温くてざらついた感触が頬に気持ち良かったのを覚えています。
 割れた隙間はずっと奥まで細く続いていて、僕はニャッキを思い出して自分がニャッキだと想像しながら丸まりました。
 そのとき僕は一生このまま、芋虫のように這いずり回って、永久に空ばかり見上げたまま死ぬような気がしました。
 それも悪くないのかなって、思ったけれど。
 少し、泣きました……。
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