17
2017

囀る神

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 公営住宅のベランダの錆びた柵と
 ゴム人形と枯れた朝顔と年寄りじみた下着と
 うだる湿気と掘られたままの車と曇天と
 油のこびりついた換気扇と黄色い自転車とシャンプーの匂いと
 下校する子供の声とブランコの軋む音とバッタの標本と
 廃線の踏切とライオンの送迎バスと折れたリコーダーと
 隣室の怒鳴り声。

 黄金色の麦畑の中でよくかくれんぼをしていた。
 見つけるのはいつも同じ人だった。
 あの赤い梯子が立て掛けられた家の黄色い目の男は、
 鉱山の毒で気が狂っていて子供を食べると噂されていた。
 君をさらって麦畑の中を逃げていた時、
 僕の目が黄色く濁っていることに気付いた。
 新しいパパと同じ目だ。

 土曜の夜には電話する約束だったのに、
 散々月とおしゃべりして、
 足が棒になるまで当ても無く彷徨って、
 結局朝方始発で帰ってしまう。
 また来るからね、まーちゃん。元気でしててね。
 「二度と来るな!」

 「桜、もう殆ど残ってないね」
 「雨も降ったからね」
 「葉っぱもチラホラ見えるし」
 「うん。あ、あの木よさそうだ」
 「丈夫そうだね」
 「じゃあそっち結んで」
 「うん」
 「せーの」
 「「ぐえっ……」」

 ベランダにダンボールを敷き詰めて、寝転がったら安い蒸留酒でゲロゲロになって星の無い見上げて、
 僕達は沢山語り合ったね。
 未来のこと、
 明日のこと、
 昔のこと、
 フラれたこと、
 家族のこと、
 暖かくなったら遠くへ行こうとか、
 8ミリフィルムでも撮ってみるかとか、
 何一つ叶いそうもない、他愛ない話を。
 別のアイツは、アイリッシュパブで「こいつを全部飲み干してやるよ!」って、
 そういうのは辞めろって言っても聞かないんだけど、
 ふらついた帰り道で「お前がいてよかったよ、落ちこぼれ同士でも上手くいくって手を挙げようぜ」、
 なんて乱暴に肩を組んで、「姉さんどう俺の刺青!?」と絡んだりしてた。
 みんな走るの辞めちゃったよ、レントン。
 イギーポップはまだ踊ってるのに。
 みんな走るの辞めちゃったよ、俺は寂しいよ。
 また滑らかに生まれてよ。

 雨の日カーブミラーの水滴をずっと眺めて、
 そこに映る車の数を数えた。
 潰れた個人の電気屋の看板が橋の下に落ちてる。
 川は少し氾濫して、沿いの草むらは妙に騒がしく。
 廃車の硝子を割ってみた、意外と綺麗に散らない。
 誰かを待たせてる気がする。
 でも僕じゃない誰かがきっと迎えに行く。
 それが、いいんだ。

 凍った湖の上歩いて帰る。
 スケート帰りの頬赤らめた女の子。
 毛糸の帽子とツイードのジャケット。
 咥えた飴玉で頬が膨らんでる。
 家に帰れば意地悪な兄と継母。
 同級生の気にするものはてんでダサくて、
 ちっとも興味なんて持てないから、
 放置されたトレーラーハウスの中、
 万引きしたCDずっと聞いてた。
 ここは宇宙船の中だと思い込んでいた。

 アイツが買った中古のキャデラック
 逆さの地図で海までドライブ
 誰とでも仲良くなれるあいつ
 単車乗りに珈琲奢る
 コンドームぐらいちゃんと捨てろ
 高速200キロくらい、ハンドル足で運転している
 事故って死んだら、ハリウッドみたいにこの車をぶっ飛ばしてやる
 目的地に着きたいわけじゃなかった……

 俺の身体が硝子だったなら、
 この心臓のどす黒さが見えたろう、
 些細な言葉で砕け散り、
 触れるその手もズタズタに、
 水に入れば見つからず、
 何を敷き詰めただろう、
 枯葉だろうか、血だろうか、
 タァルだろうか、酒だろうか、
 泥だろうか、
 俺の身体が硝子だったなら
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