見栄

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 もうすぐ一年ぐらい、男社会って奴に属してて、色々と驚いたことがある。
 まず一つが、え、男ってこんなに見栄っ張りなの!? ってことだ。
 俺は自分が筋金入りの見栄っ張りだとばかりてっきり思ってたんだけど、なんてことはない、誰もがそうだった。
 というか、なんなら男というものは、男同士の生活の中で、所謂男って奴になっていくのかもしれないな。
 仕事が出来る、弁が立つ、腕力がある、武勇伝を持ってる、そういうのが偉いっていう世界は、俺にとって凄いカルチャーショックだった。

 それらの正反対がとてつもなく価値があることだと思ってた。
 仕事が出来なくても、口下手でも、非力でも、大した経験なんてなくても。
 人は立派にやっていける。目立たなくても大事なものは持っていられる。
 誇りってのは別に掲げて見せびらかすもんじゃないって。
 でも現実は、掲げて見せびらかして、わぁ凄いね格好いいねって、お互いで言い合っててさ。
 嫌味じゃなくて、いいなぁって。思うよ。俺、そんなの一個も持ってないもん。
 人に見せられる自慢のものなんか、一つも持ってない。
 そんなものを手に入れることは、一生無いと思う。

 よくよく考えたら、学生時代にもそういったものは薄々感じていたな。
 クセが強かったり、笑いを取れたり、スポーツが得意な奴が偉かったり。
 ただなんていうか、そういうのってある一定の時期過ぎたら卒業するもんかと。
 まぁ、それもよく分からなかったほどに盲目で落ちこぼれだったけど。今もそうだ。

 でもその中でも、やっぱり自分やそれより下の子って、凄く平和で大人しくて、ケラケラ笑う素直な子が多いなって思う。
 俺の周りに、たまたまそういうのが集まってるだけかもしれないけど。
 逆にシニカルなところもあって、ちょっと大げさな話が展開されたりするとすぐ「アイツ話盛ってたよね~」みたいに影で言うのはおっかないな、って思ったり。
 そういうところはなんか女の子っぽいなー、って、奇妙なギャップを感じる。
 俺は頭の中で一人でグチャグチャ気持ち悪い事を考えてるだけだから、上手く影でからかっていなしたり、柔らかくストレス解消できるのは凄く羨ましく感じる。
 これもまた、一生出来ないんだろうな。俺なんかには。

 特に凄いなぁって思ったのが、みんな一人一つは、しっかりしたオチのある「すべらない話」持ってるんだなってこと。
 俺そんなの一個も持ってねーや。人に笑ってもらうのが好きなんだけど、
 好きなんだけど…………。

 ………………………。

 勿論腹立つことも沢山有る。
 見栄が特にそうなんだけど、主婦みたいに分かりにくい奴じゃなくて、露骨な態度でのマウンティングがお盛んだね。
 ちょっとした敬語とか物理的な立ち位置とか、そういうのでふと感じたりするね。舐めてるか舐めてないか、みたいなさ。
 どうしてもそれが俺には重要に思えなくて、ペローンと済ましてるんだけど。
 舐められないためならインチキをでっち上げることもいとわない、って風潮が凄くある。
 俺、どうしてもそれが駄目なんだよな。
 円滑に物事進めるための嘘って無理。喋ろうとはするんだけど、途端に口が動かなくなる。
 だから、本心や本当のことを言って嫌われたり見下されたりするなら、もうそれでいいやって思う。
 多分俺はボケーッとして、広く浅ーい知識で、トロくてノロいデクの坊だと思われてる。
 それがもう、全然嫌じゃない。100%その通り。
 俺は人のことをバカにはしても見下しはしないんだけど(そうは見えねーかもしんねーけど)、される分には、そういうのも、もーいいやって思う。
 おまけに男社会のいいところが、そういう出来損ないとかも「そういうやつ、いるよね」ってスパッとしてるとこ。
 勿論仕事上は軽い扱いされるんだろうけど、人付き合いはまぁまぁそれとは分かれてるし。
 逆にごちゃ混ぜになると、急に話が女々しくなってつまらなくなるな。そういうのは、良くないと思う。
 仕事が出来ないことと、人として駄目なことは全く違うからね。
 俺は両方駄目だけど。駄目な方、駄目な方。ハハハ。

 あともう一個嫌なことがある。
 男同士でワイワイしてるのが凄く好きなんだけど、そこに女が一人入ったりすると、なんか、やおらにみんな豹変することね。
 そうするともう、止まらないんだよな。見栄の張り合いが。縄張り争いみたいなさ。
 俺、そういうのから一番先に逃げ出すタイプだ。
 「おーそうかそういう感じか!じゃあ俺は帰るよ、あとは楽しんでくれ!夜の公園で月でも見て野垂れ死んだ方がまだ孤独じゃないぜ、じゃーな!」
 まぁこんな捨て台詞を内心吐いて、猛ダッシュだ。
 大体のことにはビビんない方だと思うけど、アレは怖いなって思う。なんか、皆が人間から知らない生き物になったぞ……っていう。
 いや、もしかしたらあれこそが人間なのかもしんないけど……。

 俺には俺の見栄があるんだけど、それは、格好悪くて、惨めで、無様で、孤独で、愚かでも好きなものを好きって言って、誰に構うこともなく抱きしめられることだ。
 いや、俺にはまだ、出来ないんだけど、いつか出来る様になりたいなって。
 格好悪くて、惨めで、無様で、孤独で、愚かでも好きなものを好きって言えるまでは出来てるから。
 壊してしまうかもしれなくて、壊さないように、でも強く抱きしめたい。代わりに俺が壊れてもいい。
 いつか、いつか、いつか、いつか。
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