演者と会場

 以前も書いたテーマの気がするが、少しずつ考え方が変わってきたので、ここで整理しておく。

 当たり前だが、演者は会場が無いと演奏できない。
 アンプラグドならその辺の路上でも可能だが、法的にあまり可能ではない。小癪な世の中だからな。
 自前で用意するとなると、設備も貧弱になりがちだ。アイディア一つでそれも面白くなるけど。
 会場は演者に空間を提供し、演者はパフォーマンスを提供することで相互に補完しあっている。どっちかだけでは成り立たない。

 箱(会場)で働いたことがないので内情は詳しくないが、各地のスタッフや店長から聞きかじった部分だけ。
 ライブハウスの経営は実のところ、どこも結構綱渡りだ。自転車操業と言ってもいい。
 確定の利益なんて無いし、色んな種類の演者を迎える以上、売り上げはどうしてもバラつきが出る。
 バラつきがある中で照明や音響、空調で使われる莫大な電気代、物件の家賃、従業員の給金、有名奏者のギャラ、機材のメンテナンス、ドリンクやフードの仕入れ、場所によっては所謂ショバ代(現代でも意外とある)、その他維持費を賄っていく。大変な苦労だ。
 収益で意外とバカにできないのがドリンク。大体10~20%を占めているそうだ。
 ライブハウスは法的には飲食店なので、飲み物を提供する設備は必ずある。味はピンキリ。
 なんとも微妙な気持ちになる話だが、200人キャパの箱があったとして、「満員で一人ずつドリンク飲む」より「80人くらいのお客さんがガバガバ飲む」方が店側としては有り難いそうだ。
 かといって後者ばかりだと、ライブハウスの「多くの人間に音楽を提供する場」としての機能が薄まる。
 飲んで酔っ払って粗相をするお客さんや演者もいるから、ドリンクが売れることばかりがいいわけではない。トイレ破壊したり。
 こぼれたドリンクがPA卓(ステージの反対側にある、音響を管理する設備)にかかって壊れたりしたら、それだけで箱が潰れることも大いに有り得る。機材自体も目が飛び出るほど高価だが、その交換や修理で経営できない期間、収入がゼロになるからだ。
 PAは箱によって、幾多の機材が連携してシステム化されてるから、PA卓が壊れてハイ交換、って風にはいかないんだね。
 そういう機材を用いて手入れして、俺らの音を出してもらってんだよな……PAさん(音響さん)には頭が上がらない。
 ブッキング(ライブハウスの出演スケジュールを管理する人)は自分の好みや推したい演者と、お客さんにとって楽しいイベントと、経営のためのブッキングを常に秤にかけながら箱の運営のためにバランスを取って日程を組んでいる。
 酔っ払いの世話もする。いわばライブハウスの番人だ。やはり頭が上がらない。
 パズルのように色んな制限が多い中、採算を取りつつ、多くの人が幸せになれる形を常に模索しているんだ。夢を見せるのは大変だ。おバカなことも進んでやらないといけないし。
 勿論ドリンカー(ドリンク作って売る人)や受付(チケットもぎり)も不可欠な仕事だ。ここが手際悪いと売り上げは大ダメージだし、入退場が滞りまくって、とんでもないことになる。本当にとんでもないことになる。血を見る。
 人数少なくてこれらを兼任してる姿なぞを見たりすると、「うおお」って思う。エモい。もはや一番エモいのは演者でも曲でもねえ。スタッフさんたちだ。
 
 PAさん照明さんなんかは概して「裏方」と言われるけど、俺からすれば彼らこそ箱の主役、顔、むしろ表方だ、と思うことはよくある。キャラ濃い人多いし。
 昨日聞いた話では、昔のアン○ノックには「焼肉食べたい」って理由で、ショバ代集めたヤクザを襲って金を奪い取る人がいたそうだ。世紀末すぎる。ライブハウスが「怖い場所」だった頃の話か。
 社員でもない限り給料は大体地域の最低時給(やや古い知識だから今は分からない。高くないことは確か。有能だったら別かな)、労働環境はブラックそのものだし、スタッフさん自体演者であることも多いので、更に金はぶっ飛んでいく。大体バイトを掛け持ちしてる。
 概ね二日酔いか寝不足で顔色が悪い中、へんてこで無愛想な演者(俺とか)にも分け隔てなく親切に接してくれる。まぁ人間臭い業界だから、多少の贔屓があったり俺以上に無愛想だったり、ぶっきらぼうな人がいたりもするけど。
 なんというか、演者にとっての看護師や介護師みたいな存在かもしれないな……。

 そんな人たちが肝臓を死なせながら演者をバックアップしているわけだが、そんな箱のために演者が出来ることとは。
 まず、いいライブをすること。徹頭徹尾、コレに尽きる。
 何をもっていいライブとするかだが、正直、この基準はお客さんと箱、そして演者の間で大きく隔たれている。
 箱側からすれば、集客が優秀か激しいライブでドリンクがいっぱい出れば、まぁ、有り難い。さっきも書いたけど。
 でも実際見てるのは単純にアツい気持ちだったり、思い切りの良い演奏だったり、しっかりした礼儀や挨拶だったりする。
 それがあればいいライブ、というわけではないが、いいライブにはそれらが揃ってる。
 音楽的な目新しさや流行も箱の方針によっては重要視されるけど、何にせよ熱量や有無を言わさぬ説得力は求められる。
 演者は誰に向けてライブするのかと言えば、これはもう「その場にいる全員」に他ならない。バンドだったらメンバーも入るし。
 お客さんがフロアに一人でも、もはやゼロ人でもスタッフさんは見てるので、いいライブすることになんら遜色はない。覚悟が試されるな……。(苦い思い出)
 よく見かけるのが、自分が連れてきたお客さんに完全に矛先が向いてるやつ。特にMCでダラダラ会話しだしたら、かなり空気が冷める。本当に多い。
 ないがしろにしろとは言わないが、何のためにここに来たんだよってなるな。特にステージの上に持ち込んだら絶対駄目。他の人も同じ金額払って見てんだから。

 東京に来て戸惑ったのが、目的の演者だけ見てサッと帰る人の多さ。
 そ、そんなに忙しいのか。好きにすりゃいいけどさ。ライブハウスをはしごする猛者もいるし。(Ghettoのお客さんにも何人かいる)
 でも30分の演奏に2000円(都内での大体のチケット定価)はさすがに高すぎるというか。ドリンク込みで2500か2600よ?
 ちょっといい感じのバンドが集まって前売り2500だったら、当日3000円よ? 3000円あったらそこそこ飲み食いできるよ。
 俺はやっぱりチケット代はその日一日通しての値段だと思う。
 勿論自分達だけでもペイできるものを提供する気でいるし、目標は値段以上の、かけがえの無いものを持って帰ってもらうことだ。
 あれ? なんか話がずれてきてるな。辞めよう。25時間起きてるせいだ。

 箱の為に出来ること、もう一つが、これ本当に自分愚かだったというか、目から鱗だったんだけど、ドリンクを飲むこと。
 内情は秘密だが、普段破格の条件でやらせてもらうことが多くて、それはつまり「代わりにいいライブして、いつか還元してくださいね」っていう恐ろしい義務が付随してるんだけど。タダほど高いものはない……いやさすがにタダではないが。
 いいライブは確かに死に物狂いで目指すんだけど、これだけしてもらって、他にこっちから返せるものは無いのかな……ってずっと思ってたわけよ。
 そしたらMUSHAxKUSHAの池さんから「HIROSHI ASAKUSHA(梅さん)のイベンド、集客はそんなにだけど、ドリンクめっちゃ出るよ!本人がすげー飲むから」という話を聞いて。
 そ、その手があったのか……!
 というわけで、折角人よりチビッとアルコォル耐性ある(つけた)んだから、極力体調と懐の許す限りドリンクは頂くことにしている。
 美味しいお酒に気持ちよくなって、店側も売り上げ出て、これホンマ全員幸せやなっていう。
 そういうところが先輩達はいちいち格好いい。なんていうか、義理と人情、仁義の世界だ。
 そしたらいつの間にか「飲む人」みたいな扱いになってるが、最初は無理して煙草吸ってたけど、そのうち辞められなくなったパターンだよコレ。
 Ghettoのお客さんたちの飲みっぷりには到底敵わないが……どうなってんだアイツらの肝臓は……。

 また話脱線するけど、そうしてドリンクを頂くうちに「結構箱によって味違うんだなぁ」という、ごく当たり前のことにも漸く気付いた。
 普段客としてライブハウスにあまり行かないから、それまで全然気付かなかった。
 入場するときにドリンク代、一杯分払うだろ。その一杯が美味しいかどうかって、凄い重要だなって。ソフトドリンクでも一緒だ。
 人が入れたものだからそんなゲロマズとは思ったことないんだけど(というか舌がバカだから酒は何でも美味い)、何よりドリンカーの人のさり気無い一言とか表情とかでも味変わるなって感じた。
 両国のくまちゃんさんとかね。みなが口を揃えて言うわけだ、恐ろしい女だと。敏腕ってことよ。
 あー、これは……お客さんにも、こういう面でいい思いさせたい……と思ってる。お客さんに実際聞いたりもする。どこの箱がお酒美味しいですか? って。そうするとやっぱり出てくるんだな。
 難しいのはカフェか。そもそもクソうるさく叫び散らすだけの弾き語りがカフェでやるってのがユニークなんだけど。
 飯が不味くなるような歌ばっかだし。いつも「大丈夫か……?」と気が気じゃない。大丈夫ではないな。
 フードは偏食だから冒険すぎるし、そもそもライブ前は精神統一で食べられないし、ドリンクもこう……ああ、でもこの間のT's palは、むっくんお酒も飲まんのによう選んだな。店の人と相談したんかな。
 っていうか、最近人の手料理を殆ど食べてないな。GWお酒とつまみと珈琲とコンビニ飯だけだ。添加物まみれでそのうち死ぬな。まぁいいか。

 昨日のライブで久々にPUNiKさんと対バンだった。時々イベントでも御世話になってる。
 ライブハウスが昔「怖い場所」だった頃の香りがする、体中お絵かきだらけでおっかないけど超暖かい人たちだ。
 酒癖も女癖も口も悪いし手も早いし、どうしてか本能で「悪い人じゃない」って分かる。ライブハウスあるあるで、見た目怖い人ほど優しいっていう法則もあるし。
 多分嘘が無いからだろうな。全部正直に喋っちゃうし、すぐ探したがるし。怖い人の「探すから」は本当に怖い。逃げ場なし。○ンチノックの話も誠さんから聞いた。
 ゆらゆらしてて酒こぼしまくるから、すぐ次のドリンク頼んで最後には財布空にしてる。
 大分怖いことを言ったあとに「本心じゃないんだけど、どうしてかこういう物言いしか出来ねえんだよ」と言う。
 色んな箱を出禁になってるから、やっぱ正直ってムズいんだな、まぁ迷惑かけるしなって思うんだけど、結局こういう人たちが昔から本気でやってて、内情はともかくパッパラ景気よく金使ってイベント打ちまくって日々の箱に還元してきたんかなぁ。
 それともやっぱ粉砕してたんかな。
 「どうせ生きててもいいことなんてあんまねーんだから、全部ぶっ壊そうぜ!Fuck Yeah!!」
 とボーカルのタグさんが叫んで曲が始まって、何言ってるかよく分かんねーボーカルにハウりまくるギターとクソはえーリズム。お客さんも誰見に来たとか関係なく、その熱量にはしゃぎまわって。
 夏でも革ジャンなの意味わかんねーわ。最高か。もはや理屈じゃねえんだな。
 綺麗だったなー、本当に綺麗だった。思い出したら泣けてきた。音楽の理想郷かと思ったわ。パンク全然好きじゃないのに。
 例えばこういう人たちが培ってきた、ライブハウスという場所のステージに立って、これから俺はライブをするんだ、といつもセッティング中に思う。
 とてもじゃないが想像しきれない、色んな色んなすごいやばいすごい人が立ってきた場所なんだなぁって。どこのステージでも思う。
 しかしすぐ台湾ツアー行こう!イギリスツアー行こう!と誘われるのは参る……メチャクチャ嬉しいんだけどな。
 まずパスポートの発行からやで……。
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