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Wrong Number



「もしもし」
「あ、あのさぁ、次の仕込みなんだけど」
「あ?」
「あれ? え、誰?」
「誰だろうね」
「あっ、あ、ネコたん? ごめん間違えた」
「切っていいスか」
「待って待って、え、あんさ、ネコって次来る?」
「いや……」
「最近来ないよね、どした?」
「どうもしない。あー……そうだな、だってあそこの絨毯、気持ち悪いから」
「え? どういうこと?」
「なんかブヨブヨして。匂いも。えっと、つまりヤなこと思い出すんだよ」
「ふーん……なんか、ネコらしいね」
「バカにしてるだろ」
「してないしてない!」
「あのさぁ」
「駄目切っちゃ」
「なんなんだよ……」
「いいじゃんたまには。いやごめん、こういうの好きじゃないよね」
「まあ、お前ならいいよ」
「うわ、やっさし。惚れそう」
「どうぞ」
「うっそー」
「あのさぁ」
「ごめんマジ待って。あんさぁ、一つ聞きたいんだけど、男の人って元カノから電話来たらウザい?」
「……多分大体喜ぶ。っていうか、普通そういうの逆な気がする」
「そういうもん?」
「いや知らんけど。ツレとかがそうだから。男だけで飲むと電話帳の女にランダムでかけようぜ、って件があったりする」
「ネコたんは? かけたことあるの?」
「あるけど、幸い誰か出たことはない」
「無視されてんじゃない?」
「あっ、ふーんそっか!!! 死のっかな!! んー!!」
「アハハ、待って! ちょ、ヤバイ! ハハハ!!」
「待たねーし。死ぬし。ヤバイの俺だし」
「フフ、でさ、ごめん話戻んだけど」
「あー、いやホント、大体相手してくれるよ。男は大体、昔の女が自分のこと忘れられないヒトだと思ってるって、妄想してっから」
「ネコたんは?」
「は? いや一刻も早く忘れて欲しいね。俺の存在ごと」
「ぶっ、やっぱ頭おかしいわ」
「うるせえよなんなんだよテメー」
「多分それは無いと思うよ」
「あっそ」
「うわ、本気嫌そう」
「だって嫌なもんは嫌だもん」
「どして?」
「んー……え、てか何、なんで俺の人生相談みたいになってんの」
「いいじゃん教えてよ」
「なんつうか、あー……あの、要は自己防衛だよ。今まで本当にすみませんでした、いっぱいいっぱい酷いことしました、女々しくてキモいっすよね、男らしくなくてごめんなさい、甲斐性もなくてごめんなさい、そんなクソゴミの俺のことは綺麗に忘れてください、さ、もう他人ですね、ハッピーハッピー、みたいな」
「全然ハッピーじゃないじゃん! 毎回そんななるの?」
「なるよ。今もう言ってて落ち込んできたよ」
「うわ、マジかー……」
「聞いといて引くとかマジ無くない」
「え、ごめん違う、別に引いてるとかじゃない」
「ハァ」
「あ、幸せの妖精が死んじゃうよ」
「ハァーーーーーーー」
「うわー大虐殺だー」
「なんて惨いんだー」
「ふ」
「なんかしたくなってきた」
「え、何が?」
「ナニが」
「急すぎっしょ」
「うん俺何言ってんだろ? 切るわ」
「テレセクする?」
「いや、別にいい」
「私はいいけど」
「じゃーカマン!」
「ちょ、笑わせないでよ」
「すんません」
「え?」
「ん?」
「もしもし?」
「もしもーし?」
「…しも、…し…?」
「あーらら」

 携帯が熱くなってる。通話を切って充電器に指し直して、俺は珈琲を入れながら考えた。
 このパターンは知ってる。間違い電話のパターンだ。人生の早いうちに、先にされたことがあってよかった、と思う。
 どんなに建前を考えたであろう第一声で、既に相手にはバレバレって分かってたから。こいつ視線は外してるけどコッチ見てるな、みたいな感じ。
 でも指摘したことはない。凄く恥ずかしいだろうから。そこを弄れば嗜虐心は満たされるが、気付いていながらあえて放置して探るのが、まぁなんというか一番面白いし心地がいい。秘密を一切握って、本当に優位に立ってる感じがする。性格の悪いことだ。
 ただやっぱり性格が悪いから、その動機まで考えるのは嫌だった。自分が嫌いってのは、要は疑り深くなるってことで、そんな自分が更に嫌になる。よく出来たスパイラルだ。
 ま、つまり壺は買わないタイプってことだから、それはいいよな。

 電話が鳴っている。これはもうWrong Numberじゃない。
 義務感だけになってしまった。
 一刻も早く忘れて欲しいと思った。
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