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トリックオアトリート


 明日は私の誕生日。
 だからきっと大切なことが起きるし、箪笥から怪獣が飛び出してこないし、枕元のペンギンのぬいぐるみが手拍子してくれるし、鉢から花火が上がって部屋中を光る粉が舞う。
 フローリングの隙間から煙が湧き上がると、それはランプの魔人のように毛むくじゃらの優しいモンスターたちになって、沢山のプレゼントを私にくれる。
 どれも可愛いリボンでラッピングしてあるから、あえて私はそれを一つも開けないでピラミッドみたいに積み上げてベッドにもぐりこむ。
 布団から羽毛が突風と共に吹き上がって、綿飴みたいに一塊になると、大きくて白いフクロウになって私の頭を撫でる。それに落ち着いた私は大好きなレコードを聴きながら眠りに落ちる。
 明日は私の誕生日。
 朝になれば、蝶が私の唇にとまって目が覚める。
 家の外は華やかなパレードが通っていて、空を色とりどりの風船が踊っている。
 近所の家には全部煙突が生えていて、そこから出る煙は輪っかで、徐々に大きくなって最終的にドーナツになってる。ストロベリーのチップが混じったオールドファッション。
 私は黒いワイドパンツとサスペンダーに着替えて街に出る。勿論チャップリンのように黒いステッキを忘れずに。
 耳の奥がキンとするような晴れやかな青空で、編隊飛行の戦闘機が放射状に広がっていく。
 小粒の雨が降るけど濡れたりはしない。近くまで落ちてくると、当たる前に丸いゴムボールみたいになって跳ね返るからだ。
 明日は私の誕生日。
 気分が良くなった私は、ずっと気になっていたけど素通りしていた喫茶店に入る。ウェリトンの眼鏡がよく似合う白い口髭を蓄えたお爺さんがマスターだ。お客さんは皆綺麗なアルビノで、各々が水玉模様の子豚を抱きかかえている。
 ブランチを取るナイフとフォークの音が涼やかで、それらの音はそのうちタップダンスを混ぜたリズミカルなワルツに変わる。
 私が頼んだスフレとタルトはタキシードを着たカンガルーが運んできてくれる。勿論とても美味しい。身震いするほどキメ細やかで甘いのに、後味がほんのり苦くて切なくなる。
 明日は私の誕生日。
 夜には風船や雨やドーナツや紅茶が全部泡になって弾けて、空に浮かんだお城に続く虹色のアーチになる。大きな兎たちが街を踏み潰しているのを見ながら、私はかぼちゃの馬車に乗ってアーチを渡る。
 城では布をかぶった幽霊がヘタッピなダンスを踊っている。王子様はいないけど素敵な骸骨が私の手を取る。目に青い炎が灯ってて、凄く情熱的なステップ。でも肝心なところで腕が取れちゃう。
 私はシンデレラじゃないからガラスの靴は履いてないし、魔法もとけたりはしない。日付も変わらない。

 明日は私の誕生日。
 だけど、鳩時計が零時を過ぎても何にも起こらない。
 ティンカーベルは私を連れ去ってはくれなかったし、ピーターパンは中年太りのおじさんになったし、ベッドのシーツは血が滲んで、睡眠薬がウィスキーに溶けきらずに、コップの底でスポンジみたいになってる。
 部屋の床は冷たくてカミソリを敷き詰めたよう。
 ベッドから降りた私の足の裏はずたずたになって、部屋中が真っ赤に染まる。どす黒くて泥のようで、本当に汚い、鮮やかさの欠片もない血の色。
 外はずっとバケツをひっくり返したような土砂降りで、部屋は薄暗くて埃っぽくて、黄色い回転ダイヤル式電話機が鳴り続けている。
 私はその受話器を取ろうとするのに、部屋のどこを見ても、家のどこを見ても、私のどこを見ても見つからない。
 とても大事な人から、かかっているその電話……。
 思い出した。
 明日はパパが帰ってくる日だ。
 きっとお土産を持ってくるだろう。大きなダッフィーをおねだりしたけど、きっとパパのことだから違いが分からずにテディベアを買ってくる。でも私はそれでいい。
 だって明日は私の誕生日だから。
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