FC2ブログ

11月の完成

 19歳。

 錆の浮いた歯車は今日も空中をぶんぶんと輪を描いて飛び回り、小さな螺子が俺の頭に次々突き刺さる。
「頭の螺子が足りないとか取れたとか言うけど、きっと私は刺さりすぎてると思うの」
 紫色の空を流れる雲ばかり見ている貴方は、ちっとも様にならないことを言っていた。
 この高架からは駅のホームも観覧車も車も空もよく見える。
 優しい歌が聞きたくて、鼓膜を破壊するような音ばかり聴きたくなるのは何故だろう。
 哀しい心に会いたくて、口汚い言葉と嫌な匂いばかりの場所へ行くのは何故だろう。
「世界が終わるとき、何する?」
「死ぬかなぁ。飛び降りするよ」
「一足先に」
「いやぁ、落ちてる途中で。俺だけがサカサマに、世界が終わるのを見るたいから」
「ああ、そっかぁ。やっぱ君は凄いね、特別だよ」
 ……まぁそう思うなら、それでいいや。
 積みあがったタイヤにダンプカーを突っ込ませたいな。そしたら灯油を被せて火をつけるんだ。別に理由なんか無い。
 ゴミ捨て場の写真を急に送ってきて、「なんだよこれ」って聞けば「綺麗だと思ったから」と言われる気持ちにもなれよ。そんな奴らばかりだったんだから。
 希望も絶望も何にも無いから、ただここに有るってだけで手足が捩れそうなほど哀しくて、命は嫌味なものなんだと思わされるから、本当に哀しい人に会いたかった。
 余計なことは言わない、食欲も無い、性欲も無い、独占欲も無い、自己顕示欲も無い、ただ深く息を吸って、吐くときには目を瞑り、夏でも秋でも吐く息が白くて、瞳の奥がまるで光を発さない、枯れ木のような人に。
 気がついたら自分だけがそうなっていくことに何処かで気付いていても、腹の底から乾いた笑いをひねり出していた、眠そうな目をいつも擦って、陰気に背中が曲がっていても。
 もしかしたらその”こわれもの”は、もう先に死んでいるのかもしれない。きっとそうだろう。自分の身体が枯れ木になるに従って、生きながらにミイラになっていく実感が浮かび上がるんだから。
 完璧にそうなった人は、みんなもう渡ってしまったのだ。”こわれもの”たちは”こわれもの”たちに会いたいと願いながら、孤独に死んでいったのだろうか。
 だとしたら本当に、生存するという事は、空気という毒ガスの中、汚れた土の上で、ドブ水を啜りながら血肉と草を噛んで空に押し潰される以外の何者でもない。
「私は記憶喪失になりたいな」
「最後の日に?」
「そう、最後の日の朝にね。そしたら、世界の最後だけを知ってる人になるでしょ?」
「あー……? そうだね」
「そしたら、その走馬灯って凄そうだね、その日一日分を凄い早さで振り返るわけだから」
「一瞬で終わっちゃうのかもね、一瞬で地面に着いちゃう」
「地面?」
「ビルから飛び降りてたらさ」
「……いいんじゃないかな」
 急に、七歳の君の運動会の写真が入った、血に塗れた手紙を思い出した。
 皆枯れ木になりたいんだ。でも俺は枯れ木になる自分が嫌で、枯れ木の人に会いたいだけだった。
 水中で息ができればなぁ。
 ずっと水の中にいれたら、この身体中の隅々まで瑞々しくなって、潮に揺られて水面越しに夜空の星と月を眺めて、浮き上がっていく泡を眺めて、ずっと溺れていることが出来るのに。
 精々溺れるのは夢だけ。そして起きると身体がまた一段と枯れている。
 もう延々とこの繰り返し、死ぬまでずっとその繰り返し。
「面白くないね」
「え?」
「面白くないよ、世の中は、人間は」
「私も? この話嫌だった?」
「…………。寒くもないのにずっと震えてるんだ。もしかしたら寒いのかな。だったら、ずっと寒いんだ。本当に暖まるものが何も無いのは本当につまらない」
「…………寒い?」
「そう」

「手も足も、頭にぶち込まれたディーゼルエンジンがどれだけ振動して煙を吐いても、ずっとずっと、ずーーーっと」
スポンサーサイト