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今更もう遅いかもしれない、

 「お前がいてよかったよ」と言ったな。
 何度飲み明かしたんだろう。大体お前はチェリーコークスかブライアンセッツァー流してた。
 で、大体アガって深夜にタイヤ公園行くわけ。何時間もぼーっとして。たまに朝が来て。
 一度調子こいてアイリッシュパブ行って、指先から肘ぐらいまである様なクラフトビールに歓喜して、会計のときヤベー額に冷や汗かいたの覚えてるわ。
 最初は共通の友達が開いた飲み会でバッタリだったな。あのときは同じコースだってのが逆に壁になって、全然他人行儀だったけど。
 あーあ、俺は変な調子に乗ってアレで周りと気まずくなっちまったんだよな。バッカみてー。今でもやってるヤツだ。
 でもお前と次会ったとき、高校なんてロクに通ってねーって話でやけに意気投合したな。あんな豚小屋行ってる奴らの気が知れなかった、ってよ。
 大体お前の単車の話とか、革ジャンの話とか、ギターの配線とかコンデンサーがどうだとか、全然俺興味無くってさ。ちんぷんかんぷんだったな。今もだけど。
 座学だと刺青のモチーフとか俺の似顔絵ばっか落書きして、全然内容覚えてねーんだから。
 何の因果か専属のレッスンも二人一緒でな。お前の方はやたらと友達多かったけど、何かにつけて一緒だったな。
 お前に飲まされてからギネス好きになったよ。最初はやたらと苦くて濃いとしか感じなかったけど。テメーも実は味よく分かってなかっただろ?
 好きな漫画もワンピースとか、キャラで言ったらフランキーみたいな。
 マジで気が合わねえと思ってたけど、お前が言うと「そーいうのも悪くないかもな」と思えたもんだった。

 今頃どこで何してんのかな。
 ローディーの仕事やりだしてたのは、聴いてもないのにお前がベラベラ喋るから知ってたけど。八の字巻きこんなに早くなったぜ、とかなー。
 他の奴の「あ、うん、すごいねー」みたいな態度にしょぼくれて、俺が「そもそもギター下手じゃねえか」とか言うと嬉しそうに「知るか! お前こそドナ・リーもっと弾けるようになれよ!」とか言い返してな。
 どっちもロクに弾けなかったじゃねえか、あんなもん。そもそも曲が良くねえんだよ。

 あるとき先生が「全員目を瞑って、想像してください。大観衆と、その前で演奏している自分を」と言って、俺は迷わず手を挙げた。
 薄目で見たら、手を挙げてるの俺と隣のお前だけだったな。
 あのときのお前の顔、ウケたなー。やたら難しい顔してて。
 「はい、もういいですよ。今手を挙げた人だけが、その場に立てます」
 当たり前だろ、と俺は思った。小学五年からずっと、頭にフッと湧いたそのイメージに取り付かれたままなんだから。
 ヨシッ、って声が小さく隣から聞こえたな。

 望月、お前まだ、そのイメージ持ってるか?
 俺は片時も離してないよ。
 お前がいてよかったよ、と俺は言う。
 ずっと言う。
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