ザ・ワールド・イズ・マイン

漫画は割と人より読んでるほうだと思う。
今までで一番衝撃を受けた漫画、感動した漫画、気持ち悪くなった漫画、面白かった漫画。
ザ・ワールド・イズ・マインだ。
寄生獣、ヒミズ、殺し屋1、プルートゥなどもいい勝負だが……とにかくこの漫画は重厚すぎる。
新井英樹の漫画は基本的に気持ちが悪い。
登場人物が気持ち悪い。ルックスが良くない。性格もやけにだらしない。何より人間くさすぎる。
どいつもこいつも、今まさにそこにいて、生活していやがる。
「宮本から君へ」「キーチ!!」「シュガー」そして「ザ・ワールド・イズ・マイン」が代表作か。どれにも共通している。

概要。
関西のナイーブで自信に欠ける若者トシ、野生児のような見た目とある種哲学的な言動のモンという二人組のテロリスト。
そして常軌を逸したデカさの熊のような怪物、ヒグマドン。
この二つを主軸に話は転がっていく。
どちらも目的は不明瞭のまま大量殺戮を繰り返し、世紀末の世はそれをテレビの向こうの世界として楽しみ、実はそうではないと気付き恐れ、殺され、嘆き悲しみ、混迷を極め、どうなっていくか、と。

連載時911よりも前に同時多発テロを起こしたり、ターミネーター2のサイバーダイン社さながらの戦闘を警察署で行い、殺人代行と銘打ってニュースサイトをハッキングしたり。
またチャットや掲示板などインターネットを介した表現も多く、予言的と解釈することも出来る。
そのリアリティや世界の動向が、とにかく俺には衝撃的で気持ちが悪かった。現代小説の奇書がドグラ・マグラなら90年代漫画の奇書はザ・ワールド・イズ・マインだろう。

まぁ細かいことは割愛するとして、主人公二人のトシモンについて言及したい。
まずモンちゃん。この男が、非常にカッコイイ。
ここが問題だ。
なぜかっこいいのか。実際連載時「モンちゃんカッコイイ!」などの声が作者に届いて、作者は困惑したそうな。
れっきとして「悪」なのだ。息をするように人を殺し、気分で人を殴り、不細工だし、不潔だし、いきなり大声は出すし、年中盛ってるし、相手は年齢性別容姿は問わないときてる。
まさにケダモノだ。
ケダモノであるがゆえにか、その瞳は非常に澄んでいて美しく、幼い頃の情景を刻み込んだままだ。
また熊の人形に思い入れがあり、動物園で幼女からぶんどって満足そうにふしし、と笑う。その笑顔がまた可愛い。
悪だ、と書いたが、それは物語上の立場であって(要するにアンチヒーローが主人公の話だから)、正義も悪もモンちゃんには関係ない。
やりたいようにやっていて、それが現代では非常識かつ非難される行動が多いだけだ。
「俺は俺を肯定する」「使え、力は絶対だ」「命は平等に価値がない」「死んだほうがいい奴は死んだほうがいい」などの発言に痺れた奴も多いだろう。俺も痺れてしまった。
(作者はアンチテーゼとしてモンちゃんに言わせていたそうだが)
間違ってる、確かに間違ってるし、人間はそうじゃないだろ、ということなのだが。いまいち否定しきれない空しさも付きまとう。人間の本質的なものの捉え方だな、と思う。

命の考え方についてはいずれ寄生獣について書くときに触れるとしよう。

そんな鬼神のようなモンちゃんに対して、相方のトシはひどく頼りない。
最初なんておどおどして、滑りっぱなしのギャグを連発し、おまけに関西弁がそれをより寒くして、でもやめない、という鬱陶しい喋り方をしていた。
人生に目的も確固たる自信もなく、檸檬と名づけた自作の爆弾を背負って街をサイクリングして、ちょっとスリリングな気持ちを味わうことを楽しんでた、ただの郵便局員だ。
それがモンちゃんにそそのかされて殺人を犯していくうちに、段々殺伐とした顔になり、最終的に幽鬼のような終始死にかけの表情になる。
殺して殺して殺しまくったら飽きてしもた、とクライマックスでトシは叫ぶ。
まぁ普通の人間なら飽きるだろうな、と。
ただの野獣からある種神々しい生き物にまで進化していくモンちゃんの脇で、悲しいほどトシは人間であり続けた。

最近になって今更取り沙汰されるようになったサイコパスという言葉(本当に世間は遅い、遅すぎる)で考えると、この漫画にサイコパスはいない。
サイコパスでなくとも、いがみ合ってる奴と向かい合ってて、足元に銃が転がってきたら拾うのが人間だ。
そのとき引き金を引くものは感情ではなくて、因果なんじゃないだろうか。
人間の意志や決意や倫理なんていかに表面的でちっぽけか、そのとき思い知らされるのではないだろうか。
それでも、だ。
それでも守らなければならない、理由なんかない、悪いからだ、本当のユートピアはそこから始まるのだ。
と、物語半ばでトシモンに脅される形で声明を発した総理大臣ユリカンは、堂々と発言した。

まぁ本当に色んな主義主張、野次、暴力などで思いが飛び交っている。
考えさせられる、というとアホっぽい。その前から考えとけや、と言いたくもなるが、考えさせられる。今までに出した結論、本当にこれで合ってるのか、と今一度刷新したくなるほど価値観を揺り動かされる。
作品とはそうでなければ。
素敵な漫画だと思います。
以上。
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