Category叫 2/6

自我遺漏

 何者でもない人間が自分に名をつけ、仮初めを真実にしていく様はいつか美しくなるもので、力を注ぐに相応しいと思っていた。 だが何者でもない人間は、やはり、何者になることも無いのだと気付いた。 惨めに何者でもないまま、血の通わないお飾りの言葉、見え透いた笑顔、低知能なジョーク、笑われても尚過ちを直せぬ幼稚なプライド。 それでも足さえ引っ張らなければ良いが、ポリシーが無いから意見が変わり、記憶力が無いか...

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ひとごろし

 うだるような暑さ、例年よりも湿気はより濃く、校内で一番大きな桜の下でオオムラがパクってきたセブンスターを吸いながら、俺はテニスコートで揺れるポニーテールを見ていた。 来年踏み切りで、自らの意志により挽き肉に変貌する子だった。ボールがガットに当たる音と、スタンスミスのソールが擦れる音が、かすかに聞こえる。 夏のグラウンドは、小学校高学年で習わされたマーチングの夏季練習を思い出す。 直射日光に金管楽...

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また靄の中

 また君は騙された。 また同じところで間違えた。 君は最高傑作か? 本当にそうか? それならそうと言えばいい。 それならそうと言えばいいさ。 でも君はまた騙される。 また同じところで間違える。 何万回でもすればいい。 数回過ぎて飽きられて。 長い間一人でも彷徨えばいい。 そうして失った自分が、本当の自分だったと気付くまで。 取り戻す戦いなら協力しよう。...

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埋没、懇願、工業的、落涙

 僕のこと、嫌いなら、どうして殺してくれないんですか。 僕のこと、好きなら、どうして抱きしめてくれないんですか。 僕のこと、どうでもいいと思っているなら、どうして無視してくれないんですか。 あなたのそういう、受動的で、保守的で、事なかれなところが、とことん嫌いです。 おぞましいです。汚らわしいです。みすぼらしいです。 一生そうしていればいい。一生そうしていればいい。 「一生そうしていればいい」。...

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筆を折った少年

 血がにじむほど爪を噛むのが癖の、癇癪を持った少年は、 想いを寄せる娘に振り向いて欲しいがためにいつも絵を描いていた。 ある者はすれ違いざまに「くだらない」と言い、ある者は「綺麗な絵だね」と言った。 少年はそのどちらもが嬉しくなかった。 自分の動機が醜いことに、薄々気づいていたからだ。 人生というものの最高の形が銀行員という有り様の田舎で、 なまじ勉強が出来たばかりに少年は神学校で特別な手解きを受...

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